付録Z-215【2】 実質為替レートとその変化率、そして購買力平価との関係について(Gemini の解説)=【1】のつづき
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(補足6)全世界株式やS&P500を為替ヘッジなしで保有し、現在利益が出ていても、金利平価原理により利益は 0 になってしまうのか?
全世界株式やS&P500を為替ヘッジなしで保有し、現在円安の影響で30%の利益が出ていると仮定します。
「この利益は、金利平価の原理によって将来すべて円高で相殺され、消えてしまうのか? それとも株の利益(リスクプレミアム)は残るのか?」という疑問は、国際分散投資をする誰もが一度は直面する非常に本質的で鋭い問いです。
結論からお伝えすると、「金利平価によって為替が円高方向に動いたとしても、株式の『リスクプレミアム(成長の果実)』は消えずにあなたの利益として残り続けます」。
その理由と、為替の動き・株の利益・金利平価・ソブリンリスクとの違いについて、初心者の方にも分かりやすいように体系立てて論説風に解説します。
1. 金利平価説の「リターンがプラマイゼロ」の本当の意味
これまでお話ししてきた非カバー金利平価(UIP)が言っている「リターンがプラマイゼロになる」という原則は、あくまで**「同じリスク(=例えば安全な預金や債券)の間で比べた場合」**の話です。
安全資産(預金・国債)の場合: 日米の金利差があるとき、高金利のドル預金にノーリスクで乗り換えても、将来の円高によってその利ざや(金利差)は綺麗に相殺され、最終的なリターンは日本円で預金したのと変わりなくなります。
株式(リスク資産)の場合: 株式は「安全な利息」をもらう仕組みではなく、**「企業が世界中でビジネスをして利益を上げ、株価そのものが成長する(キャピタルゲイン)」**という別のエンジンで動いています。
つまり、金利平価が調整するのはあくまで「お金(資金)の貸し借りにおける金利の差」の部分であり、企業の稼ぐ力そのものを消し去るわけではありません。
2. 株の「リスクプレミアム」とは何か?
株式投資には、「元本が保証されていない」というリスクがあります。そのリスクを背負って企業に資金を提供している見返りとして、投資家は**「金利(預金や国債の利回り)よりも高いリターン」を期待します。これがリスクプレミアム**です。
米国の金利が仮に5%だとします。
企業はそれ以上のリスクを背負ってビジネスをしているため、長期的には「金利5% + 企業の成長による上乗せ(リスクプレミアム)」の合計リターンを目指して成長します。
したがって、仮に金利平価の圧力によって「金利差分の為替(円高)」が起きたとしても、企業自体の成長によるリターン(リスクプレミアム)の部分は、そのまま株式の価値として残り続けます。
3. 「為替の動き」と「株価の成長」の実際の関係
いま、あなたが持っている米国の株式インデックス(S&P500やオルカン)の価値は、以下の2つの掛け算で決まっています。
【あなたの資産価値(円建て)】 = 【ドル建ての株価(企業の稼ぎ)】 × 【為替レート(円/ドル)】
ここで、将来もし金利平価の理論通りに「円高(ドル安)」が起きたとします。そのとき何が起きるでしょうか?
為替のマイナス要因:円高に振れるため、ドル建ての価値を円に換算したときに目減り(為替差損)します。これが、金利平価がもたらす調整圧力です。
株式のプラス要因:しかし、米国企業(Apple、Microsoft、NVIDIAなど)が世界中で利益を出し続け、株価そのものが成長していれば、ドル建ての株価自体は右肩上がりに伸び続けます。
つまり、「円高による目減り」と「企業成長による値上がり」が同時に進行することになります。歴史的に見ても、長期のインデックス投資では、為替が多少上下(円高・円振)したとしても、それを大きく上回る企業業績の成長(リスクプレミアム)が株価を押し上げてきました。そのため、利益がすべて消えてマイナスになるということは原則としてありません。
4. 以前話題になった「ソブリンリスク」とは何が違うのか?
「ソブリンリスク(国家破綻リスクや信用不安)」と今回の為替・株の関係は、リスクの性質が全く異なります。
ソブリンリスク(国債やその国の通貨自体の信用崩壊): その国の政府や通貨そのものが破綻しかけるリスクです。例えば、新興国などで自国通貨の信用が完全に失墜した場合、インフレが暴走し、通貨の価値が紙くずになって株価も経済も崩壊するような事態が起こり得ます。
今回の先進国(米ドルや日本円)の金利平価・為替変動: これは国家が破綻するようなリスクではなく、**「単なる金利の差と市場の需給調整による、お互いの通貨のバロメーターの綱引き」**に過ぎません。米ドルや日本円が紙くずになるわけではなく、健全な経済の枠内での「価格の調整」です。したがって、ソブリンリスクのように投資資金が全滅するような性質のものではありません。
5. まとめ:30%の利益はどうなるのか?
金利平価の働き:日米の金利差などを背景に、将来的に円高方向への圧力がかかる(あるいは理論的に意識される)ことはあります。
しかし利益は消えない:金利平価が調整するのは「お金の貸し借りの帳尻」であり、株式の持つ**「リスクプレミアム(企業の成長力)」**は消えません。
現在の30%の利益の行方:もちろん、今後の株価の変動や為替の急変によって一時的に含み益が減ることはありますが、長期的な視点では、世界経済の成長(企業の稼ぐ力)が金利や為替の変動を乗り越えて資産を押し上げていくため、利益がすべて帳消しになる心配はありません。
「為替の変動」という波に一喜一憂するのではなく、**「世界中の優秀な企業にオーナーとして出資し、その成長の果実(リスクプレミアム)をもらっている」**という本質を見据えて、安心して長期保有を続けることができます。
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(補足7)バラッサ・サミュエルソン効果=BS効果について
近年の円安を説明する上で時折耳にする**「バラッサ・サミュエルソン効果(以下、BS効果)」**について、為替が初めての方にもわかりやすいように、その定義、現在の円安を説明するロジック、そして「本当にそれが現在の円安の主原因なのか」という真相について、論説風に分かりやすく解説します。
1. そもそも「バラッサ・サミュエルソン効果(BS効果)」とは何か?
BS効果をひとことで言うと、**「経済が成長して生産性が上がると、その国の物価や通貨の価値(実質的な強さ)が自然と上がる現象」**のことです。
この効果を理解するために、国内の産業を次の2つに分けて考えます。
貿易財部門(ものづくり・自動車や半導体など):海外と輸出入をするため、世界基準の激しい競争にさらされており、技術革新によって生産性がものすごく上がりやすい。
非貿易財部門(サービス・飲食・美容・理美容など):国内で完結するため、国際的な価格競争が少なく、生産性が上がりにくい。
ここで、次のようなメカニズムが働きます。
トヨタなどの「自動車産業(貿易財)」で技術が進歩して生産性が爆発的に上がると、そこで働く人たちの給料が上がります。
すると、同じ国内にいる「美容師や飲食店(非貿易財)」の労働者も、「あっちの仕事は給料がいいぞ、転職しようかな」と人が流れてしまうため、非貿易財の業界でも生産性が上がっていないにもかかわらず、給料を上げざるを得なくなります。
給料が上がった分、美容院のカット代や飲食店のメニューの値段も値上げせざるを得ません。結果として、国全体の物価(特にサービスの値段)が上がります。
このように、「経済(特に輸出産業)の生産性が高い国ほど、国内の物価やサービス価格が相対的に高くなり、それが購買力平価を通じた通貨の価値(実質実効為替レート)を押し上げる」というのが、BS効果の基本原理です。
2. BS効果で「現在の円安」はどのように説明されるのか?
では、この理論がどうして「現在の円安」につながるのでしょうか。答えは、「かつての日本」と「いまの日本」の逆転現象にあります。
かつて(1970〜1990年代頃)の日本: 日本の自動車や電機などの「貿易財部門」の生産性や技術力が世界一でした。そのため、BS効果がフルに働き、日本の物価や円の価値(実質実効為替レート)はぐんぐん押し上げられ、**「構造的な円高・円高トレンド」**が起きていました。
いま(2000年代以降〜現在)の日本: ITやAI、半導体などの分野において、アメリカなどの外国に比べて日本の貿易財部門の生産性向上や技術革新が大きく後れを取ってしまいました。
この仮説に立てば、「日本は他国に比べて経済(輸出産業)の生産性が伸び悩んでいるため、BS効果の恩恵を失った。その結果、日本の物価や円の本当の価値が低下し、構造的な実質安・円安をもたらしているのだ」という説明が成り立ちます。これが、BS効果を現在の円安の背景に置く論理です。
3. 結論:現在の円安の「本当の原因」はBS効果なのか?
結論から申し上げますと、**「現在の急激な円安の主原因がBS効果であるというのは、経済学的にはミスリーディングであり、正しくない(あるいはメインの理由ではない)」**というのが専門家の一般的な見解です。
その理由は明確です。BS効果はあくまで数十年の単位でゆっくりと進む「構造的・実物的なトレンド」を説明する理論であって、ここ数年の急激な円安を説明するには無理があるからです。
その根拠を3つのポイントで整理します。
① スピードが全く違う(数十年 vs ここ数年の急変)
BS効果は、人口動態や技術革新、産業構造のゆっくりとした変化に伴って何十年というスパンで効いてくるものです。したがって、「昨日まで110円だったのが、数年で150円台・160円台になった」というような短期・中期的な激しい円安のジェットコースター劇を、BS効果だけで説明することは不可能です。
② 本当の主犯は「日米の金利差」と「金融政策」
現在起きている円安の直接的かつ最大の引き金は、ご存じの通り**「日米の金利差」**です。 アメリカがインフレ退治のために政策金利を大幅に引き上げた(金利が5%以上になった)のに対し、日本銀行は長年にわたって大規模な金融緩和を続け、金利をほぼゼロ(マイナス金利〜低金利)に据え置きました。 その結果、「金利の低い円を売って、金利の高いドルを買う」というグローバルな資金移動(キャリートレード等)が起きたことが、現在の名目為替レートを押し下げた最大の原因です。
③ 日本の物価や賃金の停滞は事実だが……
「日本の生産性が落ちてBS効果が弱まっている(あるいは逆回転している)」という指摘自体は、日本の構造的な弱点を突いており、長期的な実質円安の背景(ベースにある下支えの喪失)としては一理あります。しかし、それは「いま目の前で起きている歴史的な円安」を引き起こした主役ではなく、**「日本経済全体の地力が弱まった結果、金利差ショックや世界的なインフレの波に対して、円が極めて無防備で弱くなってしまった」という背景事情(下地)**に過ぎません。
まとめ
BS効果とは:輸出産業(ものづくり)の生産性が上がると、国内の賃金や物価が引き上げられ、長期的にその国の通貨の価値を高めるというメカニズムのこと。
円安との関係性の主張:いまや日本は外国に比べて生産性の伸びが鈍いため、BS効果による円高圧力が消え、むしろ構造的な円安要因になっているという見方。
真実はいかに?:それは**「半分は正しく、半分は的外れ」**です。
**長期的なトレンド(地力)**としては、日本の生産性の停滞やBS効果の低下が「円の地力を弱めた(実質安の背景)」ことは事実です。
しかし、「現在の急激な円安」を引き起こした本当の主役は、生産性の問題ではなく、歴然とした**「日米の歴史的な金利差」とそれに伴う金融政策の違い**です。
したがって、現在の円安の正体を正しく知るためには、BS効果のような何十年スパンの産業構造論だけでなく、足元の金利や金融市場のダイナミクスに目を向ける必要があります。
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(参考)
"「弱い円」と日本経済、為替リスク回避の円売りが拡大 竹中正治氏 - 日本経済新聞"
"日米金利差縮小でも止まらない“超円安”、日本株急騰が生んだ「第3の円売り要因」の正体"
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